腎不全? – 気をつけて!猫の血漿クレアチニン値はウソをつく –

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今回は、ネコちゃんに缶詰や手作り食を与えているオーナーさんや獣医師に向けてのお話です。

「血漿クレアチニン値って、何?」と思われる方にザックリとした説明をします。
腎臓は血液中の老廃物を排泄する臓器です。
血液中の老廃物がきちんと捨てられているかどうかを間接的に把握する指標に、血漿クレアチニン値が測定されます。
クレアチニンとは、骨格筋由来の代謝産物(小さな老廃物)です。腎臓にある糸球体という場所で血圧の力により様々な老廃物とともに排泄されます。
そのため、血液中にクレアチニン値が増加すると、血液中の老廃物がうまく捨てられていないかもしれないという疑いをかけます。
疑いというのは、クレアチニン値は万能ではないためです。
また、腎臓という場所はおしっこのもとにあたる原尿中に含まれる必要な栄養成分を、再び血液に取り込む働きもしています。
その作用に異常が起きているかどうかの指標に、尿の濃さを確認する尿比重検査を行います。
腎臓の健康状態は、血液と尿の両方を検査するのです。

では、話題を血漿クレアチニン値に戻します。
今から2年以上前、1歳のネコちゃんが検診に来院されました。特に気になる症状は無いとのこと。
血液検査と尿検査を行うと、血漿クレアチニン値は高く、尿比重は低下していました。
腎不全を疑う所見でしたが、体調は良く、脱水もありません。
他のネコちゃんとの違いは、オーナーさんが手作り食をネコちゃんに与えていることだけでした。
1ヶ月後、再検査を行うと、今回も血漿クレアチニン値は高く、尿比重は低下していました。
そこで、このネコちゃんをお預かりして、水分制限を行いました。
すると、尿比重は正常値まで高くなったので、やはり腎不全ではありませんでした。
それでもクレアチニン値の増加をオーナーさんも気にされていたので、食事をキャットフードに変えていただきました。
すると、血漿クレアチニン値は正常に戻りました。

これらの経緯から、食事の成分が血漿クレアチニン値に影響を及ぼすという疑いが浮上してきました。
食事中のクレアチニン含量が血漿クレアチニン値に若干影響を与えることはヒトやワンちゃんでは報告されていましたが、今回の影響はそのレベルを超えていました。
食餌でこんなに影響するものか、半信半疑でいると、この猫ちゃんのオーナーさんが、あるブログの記事を届けに来られました。
同様の経験をされている方が他にもいらっしゃって、調べてみると、1995年に日本小動物獣医学会に猫の血漿クレアチニン値に関する報告が行われていました。
この論文を下記に添付しました。興味のある方は一読してみてください。
猫に魚の食材を与えると血漿クレアチニン値は高くなるようです。
食後の血漿クレアチニン値は注意が必要のようです。


今回の症例、検査値だけで腎不全と診断しなくて良かったというケースです。
私が大学生だったころ、アルバイト先の獣医師がよく口にしていた言葉があります。
「検査結果が臨床症状と一致しない場合は、検査結果を疑え。」と。
あらためて、言葉の重さを痛感した事例でした。


補足

PDFファイルが見れない方のために下記論文の一部を紹介。

まぐろ(白身)の缶詰を与えた場合のクレアチニン値は、
Cre値(mg/dl)/食前:1.3±0.2/食後:3.5±0.7

かつお・まぐろ(血合)の缶詰を与えた場合のクレアチニン値は、
Cre値(mg/dl)/食前:1.5±0.3/食後:3.8±1.0

(摂食3時間後の血漿クレアチニン値です。缶詰はいずれもクレアチニン含量が多い食材です。)

猫の血漿クレアチニン値と食餌中クレアチニン含量.pdf
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