今夜は月に一度の足摺海洋館への往診帰り。
土佐清水市まで片道約2時間半。一昔前なら疲れなど感じない距離でしたが、最近は・・・(T_T)
今日は、9月1日に四国地区獣医師大会で報告した犬バベシア症について紹介します。
少し熱く語るので長文になりますが、興味のある方はお付き合いください。
まず、国内で発症する犬バベシア症には 2種類あり、一つは全国で発症しているbabesia gibsoni(バベシア ギブソニ)という種類と、もう一つは主に沖縄で発症しているbabesia canis(バベシア キャニス)という種類があります。
今回、犬バベシア症として報告したのはギブソニという種類の原虫が関与している疾病についてです。
(以後、犬バベシア症とはbabesia gibsoniによる感染症を指します)
犬バベシア症が初めて報告されたのは、1967年のことですが、いまだに治療薬がありません。
犬バベシア症の治療薬として認可された薬が無いのです。
そのため、犬バベシア症の治療はいまだに手探りの状況です。
そんな中、2004年に犬バベシア症に関して新たな治療法が報告されました。それは、抗マラリア薬のアトバコンと抗菌薬であるアジスロマイシンの併用による治療法です。2剤とも飲み薬です。
アトバコン 13.3mg/kg、1日3回の服用を10日間連続
アジスロマイシン 10mg/kg、1日1回の服用を10日間連続
斬新な方法に思えますが、薬の使い方に気になる点があることと、2007年に私の母校である鹿児島大学から、この治療法でも完治が難しいことが報告されました。その報告の中でアジスロマイシンは実に数十日にもわたり投薬が続けられていました。
アジスロマイシンはマクロライド系の抗菌薬で深刻な副作用は無いように思われるでしょうが、実際は深刻な副作用が報告されているのです。
最近(2012年)の報告では、アジスロマイシンを5日間服用すると心臓病で死亡する人が増えるというものでした。
そもそもアジスロマイシンには不整脈を起こすことが以前から知られており、アメリカの食品医薬品管理局(FDA)はアジスロマイシンの服用に関して、致死的な不整脈の原因になりうるとして国民に警鐘を鳴らしています。
アジスロマイシンは、犬においても少なからずリスクを伴う恐れのある薬だと思われます。
それゆえ、私たち臨床獣医師は治療のためとはいえ、リスクのある治療法を漠然と受け入れるのではなく、常に最良の治療法も模索していかなくてはならないのです。
獣医療とは、所詮、人が行うことです。
だからこそ、自らが行う獣医療行為に対しては獣医としてのプライドを持って行っていくべきなのです。
再び、話を犬バベシア症に戻します。
今回、私が試みた治療は、抗マラリア薬であるプリマキンという飲み薬のみを使った治療法でした。
リン酸プリマキン 1mg/kg 1日1回の服用を14日間連続投与
この薬の服用により、食欲が廃絶していた症状が3日目には改善され、10日目の血液検査では貧血も改善されていました。ヘマトクリット値が14.1%から40.1%(10日目)に飛躍的に改善しました。
プリマキンの利点は副作用がほとんどないということと、何より投薬量が少なくてすむという点です。
体重10kgのワンちゃんでも投薬量は耳かき1杯程度。食欲の無いワンちゃんでも飲ませることが可能な用量なのです。
投与して10日目には、血液中のバベシア原虫遺伝子も検出されなくなり、順調に治癒していると感じていました。
ところが、投薬を終えて約40日が経過した時、犬バベシア症の再発が確認されてしまいました。
最善の治療法になりうると確信していたため、その時ばかりは大きく落胆してしまいました。
プリマキンには、犬バベシア症の治療において即効性は確認されましたが、完全駆虫には至らないという結果になりました。
犬バベシア症の治療にまだまだゴールは見えてこないのですが、目の前に患者がいる以上、これからも最善の治療ができるように頑張っていく次第です。
下の写真は、babesia gibsoni原虫が赤血球に寄生している様子です。3枚目の写真は原虫が赤血球の表面に付着しているような状態です。赤血球に侵入する瞬間なのでしょうか?この原虫の生活環はいまだに謎のままなので、珍しい光景として記録に残しました。
ちなみに、私がプリマキンを犬バベシア症の治療に使用することを思いついたのは、10年以上に渡り、野生動物のマラリア症治療にプリマキンを使用してきた経験からです。
それゆえ、この薬の利点や安全性を十分把握できていたのです。
バベシア症の治療にマラリア症の治療経験が生かされればいいのですが・・・。
下に発表スライドの一部を搭載しました。
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