犬のリンパ腫は発生率の高い腫瘍で、発症年齢は若齢で生後6カ月齢から発症し、好発年齢の中央値は6~9歳齢と報告されています。国内の好発犬種として、ゴールデン・レトリバーやシェルティ、シーズー、マルチーズなどが多いとされています。その他、雑種犬も好発犬種として報告されています。
リンパ腫とはリンパ球が骨髄以外で異常に増殖する疾患で、発生部位によりいくつかの病型に分類されます。体表のリンパ節が腫脹することで発見されることが多いのですが、このような病型を多中心型リンパ腫と呼ばれています。また、胸部中央(前縦隔または胸腺)のリンパ節が腫大して呼吸器症状や食欲不振などで発見される前縦隔型はリンパ腫中約5%の頻度で認められると報告されています。国内ではダックスフンドに多発する消化管型リンパ腫と呼ばれる病型があり、雌より雄に多い傾向があります。このほか、皮膚型リンパ腫と呼ばれる病型もあり、菌状息肉症という疾患もこの病型の一つとされています。
今回は遺伝的解析を試みたダックスフンドやシーズーでの多中心型リンパ腫の症例をご紹介します。
リンパ腫の治療において複数の抗癌剤を投与することは多いと思いますが、抗癌剤による身体の負担は大きいものです。そのため、リンパ腫の治療を進めていくにあたって、寛解したという指標になるのもが欲しいと模索する獣医は少ないないと思います。また、最近では遺伝子レベルでリンパ腫の診断がされるようになり、腫瘍性疾患の早期発見に追い風となってきました。そんな折、近隣の動物病院(○○獣医科病院)の症例で多中心型リンパ腫を発症したダックスフンドの末梢血を使って遺伝子検査を行ってみたところ、リンパ腫の診断に結び付く遺伝子が増幅されました。そこで末梢血を使って病状の寛解や再発の指標をつかめないか、治療経過を見ながら遺伝子検査を行っていったのが下記に記したデータです。症例数が無いので、結論付けた話は出来ませんが、いろいろ勉強になったのでご紹介させていただきました。
症例
ダックスフンド 9歳 ♀ 体重3.0kg 主訴は嘔吐と下痢で来院されました。触診で下顎、浅頚リンパ節、膝窩リンパ節が腫大していました。この症例では初診時に採取した血液を使って、遺伝子レベルでの診断が可能かどうか検討することになりました。Bリンパ球系腫瘍の鑑別として細胞レセプターであるIgH鎖の遺伝子をターゲットとしてクローン性の増幅が認められるかどうかを調べてみました(1枚目)。腫瘍性増殖の有無、つまりクローン性増殖であるかどうかの確認の方法を2枚目のスライドに示しました。様々な受容体遺伝子が存在すると単一の遺伝子は検出されませんが、クローン性増殖であれば単一の遺伝子が増幅されるというところに着目して検査しました。3枚目のスライドが実験方法とPCRという手法により検出された遺伝子のゲル写真です。その遺伝子を解析したのが4枚目のスライドです。PCRにより増幅された遺伝子はクローン性のIgH鎖遺伝子と確認され、血液検査でBリンパ球系腫瘍と推測されました。この症例で治療経過をみていくと抗癌剤投薬後には血中に腫瘍細胞の遺伝子は検出されず、再発時に再び血液中に腫瘍細胞の遺伝子が検出され、病状を把握する新たな検査法の可能性が見出された。5枚目のスライドは白血球数やHt値の推移を示し、6枚目は遺伝子検査の推移を示したものです。難しい内容にも関わらず、ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
症例
シーズー 6歳 雌 体重3.0kg 主訴は、嘔吐と下痢の症状で来院されました。触診で下顎、浅頚、膝窩リンパ節が腫大しているのが分かり、腫大したリンパ節の細胞を注射針で吸引し、その細胞を顕微鏡で観察するとリンパ腫を発症しているのが確認されました。
細胞診所見 核の大きさが赤血球の3倍程の大型の細胞で、細胞質は好塩基性(青紫色)で、核内には明瞭かつ大型の核仁が認められました。これによりリンパ腫と診断されました。針生検で採取した腫瘍組織と血液を使ってTリンパ球系の腫瘍かBリンパ球系の腫瘍かの診断を試みたところ、組織からはBリンパ球系腫瘍を疑う結果となり、細胞診所見と一致した結果となりました。ここで検査に使用した血液は抗癌剤投与後の血液で、上記の結果を受けて実施した検査では無かったため、同様の経過が確認できたかどうかは分かりません。